大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 平成8年(ワ)1632号 判決 1996年12月19日

横浜市旭区柏町五八番地の一

原告

河野禮通

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

松浦功

右指定代理人

小暮輝信

渡部義雄

田部井敏雄

加藤正一

池上照代

中澤彰

木村忠夫

上田幸穂

山本善春

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金二三万四八〇〇円及びこれに対する平成六年四月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

原告が、被告に対し、被告の公務員の行った偽証行為及び犯人隠匿行為によって精神的苦痛を被ったとして慰謝料の請求をしている事案である。

一  争いのない事実

1  富田一男国税調査官(「富田係官」)は、保土ヶ谷税務署部係官として、原告の所得税に関する調査を担当したことがある。

2  富田係官は、右調査の過程において、原告の帳簿の一部を原告に無断で謄写した(「本件謄写行為」)ことがある。

3  村上通章上席国税調査官(「村上係官」)を申述者として、国税訟務官木村武義を聴取者として、申述者が平成六年四月一三日に申述した内容を聴取者が聴取した旨の聴取書(「本件聴取書」)が、横浜地方裁判所平成六年行ウ第一一号、同平成七年(ワ)第一五一号事件の証拠書類として作成され提出された。(甲二)

4  国税調査官石倉正光(「石倉調査官」)は、平成七年一一月二〇日付で、横浜地方裁判所に宛てた陳述書(「本件陳述書」)を作成し、この書面は証拠書類として裁判所に提出された。(甲五)

二  原告の主張

1  富田係官の本件謄写行為は窃盗罪に該当する犯罪行為である。

2  村上係官が、本件聴取書において本件謄写行為について何も触れていないことは、偽証行為及び犯人隠匿の行為ともいうべき違法な行為である。

3  石倉調査官が、本件陳述書において本件謄写行為について何も触れていないことは、偽証行為及び犯人隠匿の行為ともいうべき違法な行為である。

三  争点

村上係官及び石倉調査官が違法な行為をしたか否か。

第三争点に対する判断

一  窃盗罪は、他人の財物を窃取する罪のことをいい、窃盗罪に該当する行為は他人の所持を侵し自己の所持を設定する行為でなければならないと解されているものであるから、本件謄写行為をもって窃盗に該当する行為と解することはできない。

他に本件謄写行為をもって違法なものと解すべき事情は特に認められない。

二  村上係官及び石倉調査官がそれぞれ本件聴取書及び本件陳述書において本件謄写行為について申述或いは陳述をしなければならない法的な義務の存在を認めることはできず、両名が右各書面において本件謄写行為について何も触れていないことをもって違法な行為(不作為)であると解すべき事情は特に認められない。

三  よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないので、主文のとおり判決する。

(裁判官 北村忠雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例